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ONE PATHOS Interview 東京都多摩エリア
Ⅰ.Tama-FAST*について

*多摩急性期虚血性脳卒中治療フォーラム

東京都立多摩総合医療センター
脳神経外科 医長

太田 貴裕 先生

1.設立の趣旨

 発症から4.5時間以内の急性期脳梗塞に対しては、組織プラスミノゲンアクチベータ(t-PA) 静注療法が標準的治療として確立されていますが、内頚動脈や中大脳動脈などの近位主幹動脈閉塞症に対してはt-PA静注療法のみでは十分な効果は期待できません。現在では主幹動脈閉塞症に対する脳血管内治療(再開通治療)が標準的治療となっています。

 現在、わが国では主に4つの血管内治療用デバイス(Solitaire、 Trevo、 REVIVE、 Penumbra)が臨床使用されています。最初に登場したのが2010年に認可された血栓回収デバイス(Merciリトリバー)で、デバイス先端の針金に血栓をからめて取り除くタイプのデバイスです(ステント型血栓回収デバイスの登場で現在は使用されなくなりました)。さらに、2011年には血栓をポンプで吸い取って取り除く血栓吸引デバイス(Penumbraシステム)が保険収載されました。そして、2014年には待望のステント型血栓回収デバイス(Solitaire、Trevo)が臨床使用されるようになり、超急性期主幹動脈閉塞症の治療は進歩しています。また、2015年にはMR CLEAN201)、ESCAPE212)、EXTEND-IA223)、SWIFT PRIME4)など、本デバイスを用いた国際共同試験の結果が相次いで発表されました。これらの試験では、前方循環系の主幹動脈(内頚動脈、中大脳動脈近位部)閉塞による急性期脳梗塞に対して、t-PA静注療法に加えて主にステント型血栓回収デバイスを用いた血管内治療を施行することにより90日後の日常生活自立度が有意に改善されました。これらの結果は、急性期主幹動脈閉塞症に対してはt-PA静注療法で治療を終了させるのではなく、速やかに血管内治療を行う必要があることを示唆しており、そのインパクトは非常に大きなものでした。

 血管内治療を行っていくには、脳血管内治療医、脳神経外科医、神経内科医・内科医、地域の先生方などと地域ぐるみで連携を取っていく必要があります。しかし、東京都多摩地区ではこの治療を行える施設は限られており、人口比から考えても決して十分な施設数とは言えませんでした。そこで、多摩地区で血管内治療を行う施設を増やし、血管内治療実施施設に速やかに患者を搬送するシステムの構築を目指すような場を設けたいと考え、当時虎の門病院脳神経血管内治療科部長(現・筑波大学脳卒中予防治療学講座教授)の松丸祐司先生からもアドバイスを頂き、2015年2月に多摩急性期虚血性脳卒中治療フォーラム(Tama Forum of Acute ischemic Stroke Therapy: Tama-FAST)を立ち上げました。

 

2.開催状況

 血管内治療による再開通療法が可能となった近年、脳卒中治療は急速な変貌を遂げつつあり、その変化に合わせて地域における脳卒中治療システムを再構築していく必要があります。このシステムにおいて重要な役割を担うのは、t-PA治療が可能な一次脳卒中センター(primary stroke center; PSC)の機能を持つ施設と、急性期脳血管内治療が可能ないわゆる包括的脳卒中センター(Comprehensive stroke center; CSC)にあたる施設です。現在、人口が400万人を超える多摩地区において、東京都脳卒中急性期医療機関リストの、いわゆるPSCは43施設5)、CSCとなる再開通治療可能施設は13しかありません(平成29年12月1日現在)。Tama-FASTを通じてPSCとCSCの施設数を増やすように、地域での取り組みを強化しています。

 Tama-FASTは年間3回のペースで開催され、現在までに9回の開催を重ねてきました。血管内治療に限定することなく再開通療法全般をテーマとし、毎回2-3演題の一般演題と1つ演題の特別講演でプログラムが構成されています。第1回目の参加者数は26名でしたが、毎回参加人数が増加し、第9回目には63名の先生方に参加していただきました。参加者の多くがt-PA治療や血管内治療を行っている先生方ですが、最近では看護師・放射線技師の参加も増えてきました。今後は患者さんを送る側のかかりつけ医の先生方や救急隊員にも参加していただけるような会にしていきたいと思っています。

3.成果と今後の課題

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図1再開通治療の医療連携

 Tama-FASTの開催を重ねていくうちに、地域における顔の見える医療連携が構築されつつあります。Tama-FASTの特徴は、多摩地区というエリア内で再開通治療を実際におこなう現場の医師同士が中心となって意見交換を行っているところです。お互いに顔の見える関係であることから、地域の中で患者さんを送る側と受け入れる側との連絡がスムーズに行えるようなケースが増えています。また、最近では多摩地区での血管内治療専門医のメーリングリストがを作成されし、主要学会期間中の各専門医の予定が一覧できるような仕組みもできてきました。これにより、大変効率よく患者さんの搬送先が探せるようになっています。

他には、再開通治療の説明書を多摩地区で共通化すること、さらに2017年4月からは、「東京多摩地区における急性脳主幹動脈閉塞症に対する血管内治療の実態調査(Tama-REgistry of Acute endovascular Thrombectomy: TREAT)」が開始され2017年1112月末時点で約500例の症例が登録されています。この調査は多摩地区のほぼすべてのCSCが参加しており、人口430万人の多摩地区内における現状把握・救急搬送における問題点の把握など非常に重要なデータになりうると考えており、今後データ解析を行っていきます。

 このような活動を通じ、多摩地区では、CSC機能を担う各施設がハブ空港のような中心施設として機能し、周囲のPSCとの連携を強化するようになってきています。そして、CSC同士の連携、CSCとPSCの連携、PSCとかかりつけ医の連携など、地域における再開通治療の医療連携が構築されつつあります(図1)。

ただし、このような医療連携は、複数の再開通治療施設が搬送可能な距離にある多摩地区だからこそ可能なモデルかもしれません。

 急性期脳卒中の再開通治療は、時間との勝負です。CSCやPSCの施設数が多くはない多摩地区においては(図2-a、b6)7)、治療可能な施設で患者さんを受け入れ、対応できない場合にはお互いに転送し合うような連携が常に必要です。今後も、Tama-FASTなどを通じて治療可能な施設を増やし、効率的な搬送が可能となる医療連携の構築に努めていきたいと考えています。

図2a

図2a 脳血管内治療に関するアンケート調査「調査報告書」 ─ 平成28年3月─

*

<引用文献>

1)     Berkhemer OA, et al. N Engl J Med. 2015;372:11-20.

2)     Goyal M, et al. N Engl J Med. 2015;372:1019-1030.

3)     Campbell BC, et al. N Engl J Med. 2015;372:1009-1018.

4)     Saver JL,et al. N Engl J Med. 2015;372:2285-2295.

5)     東京都福祉保健局 東京都における脳卒中医療連携の取組 

        2 救急搬送・受入体制の構築>(1) 東京都脳卒中急性期医療機関認定

        東京都脳卒中急性期医療機関リスト;毎月1日付で更新 

6)     東京都福祉保健局 医療政策部医療政策課:脳血管内治療に関するアンケート調査調査報告書;平成28年3月 P.9

7)     東京都福祉保健局 医療政策部医療政策課:脳血管内治療に関するアンケート調査 調査報告書;平成28年3月 P.27