imamura.kobayashi

ONE PATHOS Interview 兵庫県但馬エリア Ⅰ.公立豊岡病院における
救急医療体制と血管内治療

公立豊岡病院
但馬救命救急センター センター長

小林 誠人 先生(写真右)
脳神経外科 医長
今堀 太一郎 先生(写真左)

1.ドクターヘリによる救急搬送と急性期脳梗塞治療
(小林 誠人 先生)

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図1 公立豊岡病院の搬送エリア

 公立豊岡病院は、兵庫県北部(但馬地域)に位置する豊岡市に設立されている500床を超える病床数を有する総合病院です。但馬救命救急センターは、2010年4月に開設され、緊急手術対応、重症患者対応、集中治療対応などを一貫して行っています。開設当初は9名体制でスタートしましたが、現在では救急対応、重症対応を専門とした23名の救急医が、24時間、365日にわたる救急医療に対応しています。また、当センターの救急医はすべて専属スタッフで、それぞれが内科系や外科系などの専門性を有し、全員が病院前救急診療を専門としています。

 また、当センターでは開設当初からドクターヘリを運航し、現在は関西広域連合の救急医療体制の中のひとつの事業として位置付けられています。現在、全国では51機のドクターヘリが運航されていますが、当センターのドクターヘリは全国で第22機目の導入でした。当センターは、北近畿唯一の救命救急センターとして広大な地域をカバーし、3次医療圏の対象人口は約70万人となっています。そして、当センターのドクターヘリは、兵庫県但馬地域のみならず、丹波地域、京都府北部、鳥取県中・東部までの半径80km圏内で運航しています(図1)。ドクターヘリは時速200km以上の速度で飛行しますので、80kmの距離であっても20分以内に医療接触ができるメディカルツールとして活躍しています。なお、当センターのドクターヘリの年間の運航回数は1、900回以上であり、2010年の運航開始以来、日本一の出動回数となっています。このような救急搬送システムにより、当センターは病院前から根治的治療、集中治療、退院後の外来通院までをカバーする、日本でも数少ない救命救急センターとなっています。

 急性期脳梗塞に対しては、当センター開設当初から神経内科医によるt−PA静注療法が積極的に行われていました。しかし、治療開始可能時間は発症から4.5時間以内と短く、再開通効果も限定的なため、血管内治療に期待がかかるようになりました。そこで、当施設でも血管内治療ができないものかと思っていたところに、今堀先生が赴任してこられ、これはまさに“渡りに船”でした。そして、脳神経外科、神経内科の先生方との協力体制により、早期に血管内治療が実施できる現在の院内体制が構築されています。なお、血管内治療を導入したことで地域からの期待も高まり、ドクターヘリによる搬送患者数の増加にもつながっています。

2.急性期脳梗塞に対する血管内治療の導入の成果
(今堀 太一郎 先生)

 それまで、豊岡市およびその周辺地域には血管内治療を行う医師は不在でしたが、私が公立豊岡病院の脳神経外科に赴任した2015年4月から、当院において急性期脳梗塞に対する血管内治療を行うようになりました。急性脳主幹動脈閉塞に対する血管内治療導入前後でのデータを集計してみると、興味深い知見が得られます。まず、発症から来院までの平均時間が240分から150分に短縮されていました。これは、血管内治療の導入を契機に地域での啓発活動などが活発となり、救急隊員や一般住民の方々に脳梗塞は時間との勝負であることの認識が高まったのではないかと推測しています。以前は、このエリアの住民の方々は、脳梗塞の症状が出ても受診を後回しにするケースが大変多かったとも聞いています。また、搬送直線距離が中央値で15kmから20kmに伸びており、血管内治療の導入によって当院に搬送される急性期脳梗塞患者さんのエリアが拡大したことがわかります。一方で、ドクターヘリによる搬送の割合が増加したことで、エリアが拡大されても搬送にかかる時間に変化はありませんでした。

 再開通療法については、血管内治療導入前はt-PA静注療法のみであったこともあり、急性脳主幹動脈閉塞に対しても全体の20%程度の患者さんにしか施行されませんでした。それが、血管内治療導入後は約60%まで施行率が上昇していました。一方で、40%の患者さんに血管内治療を行うことができず、再開通療法が施行されていないことは現状の課題であり、今後はこの数を減らすような取り組みが必要だと思っています。

 脳梗塞の回復度の指標としてmodified Rankin Scale(mRS)が用いられますが、これは患者さんが脳梗塞を発症してから退院時にどのぐらいの状態にまで回復しているのかを診るための評価方法で、0(全く症候なし)から6(死亡)までの7グレードに分けられ、低いグレードほど良好な回復を表しています。退院時のmRSが0~2で予後良好と認められた患者さんは、血管内治療の導入により約10%から25%まで増加しました。ただし、これには血管内治療を行うことが出来なかった患者さんのデータも含まれますので、慎重に解釈する必要があります。血管内治療が施行された患者さんだけで捉えると、再開通率は約90%、退院時のmRSが0~2で予後良好者の割合は約50%であり、血管内治療による高い予後改善効果が期待されます。