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ONE PATHOS INTERVIEW 兵庫県但馬エリア Ⅱ.公立豊岡病院における
急性期脳梗塞診療システム

公立豊岡病院
但馬救命救急センター センター長

小林 誠人 先生
脳神経外科 医長
今堀 太一郎 先生

1.急性期脳梗塞に対する初療体制の確立
(小林 誠人 先生)

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図2 初療体制

 当院では、脳梗塞が疑われる患者さんが搬送された際の初療プロトコールが確立されています。まず、発症から4.5時間以内がt-PA静注療法および血管内治療、8時間以内であれば血管内治療の適応となります。そして、脳梗塞の治療は時間との勝負でもあり、来院から画像診断(CT、MRI撮影開始まで)が30分以内、来院からt-PA静注療法開始までは60分以内、来院から血管内治療開始(大腿動脈穿刺)までは90分以内、来院から再灌流完了までは150分以内が目標とされています。そして、脳神経外科、神経内科でのワークフローと、救急救命センターでのワークフローが作成され、これに基づいた診療が行われています。

 脳神経外科、神経内科では、ダイレクトCTで頭蓋内に出血がないことが確認されると、医師が脳梗塞プロトコールの発動を宣言します。すると、神経内科医と脳神経外科医に連絡が回り、初療リーダー看護師にMRIの準備依頼が出されます。そして、ダイレクトCT後に全例に対して頸動脈エコーが施行され、大動脈解離が疑われる場合は胸部CT検査が追加されます。さらに、放射線部に連絡が回りMRIが予約され、MRI同意書の取得、抗凝固薬服用の有無、体重、血圧値、血糖値などの確認が行われ、腎機能障害が認められないにはエダラボンが点滴静注されます。そして、MRIの結果により、t-PA静脈注射や血管内治療などの治療方針が決定されるというワークフローになっています。

 一方、救急救命センターに患者さんが搬送される場合は、別のワークフローが用意されています(図2)。まず、ドクターヘリなどから脳神経外科医に連絡が入ると、他の脳血管外科医にスマートフォンを利用した連絡網で第一報が流れます。患者さんが病院に搬入されると、救急科が初期対応を行います。そして、当番医はダイレクトCTの所見を確認し、第二報としてスマートフォンを用いた連絡網で連絡を流します。ここで、脳神経外科医が血管内治療の適応を判定する間に、MRI検査が行われます。当番医がMRI所見を第三報として連絡網で連絡し、t-PA静注療法および血管内治療の適応が判定されます。この段階で、神経内科医はt-PA静注療法を、脳神経外科医は血管内治療の実施を判断し、結果が第四報として連絡網で報告されます。そして、同時並行で同意書、電子カルセット入力などの準備が行われ、治療法決定後にはアンギオ室が準備され、血管内治療専門医と他の1~2名の医師による治療が開始されます。

 このようなワークフローにより、当院では医師と医療スタッフによる急性期脳梗塞に対する効率的な初療体制が確立され、院内で共有しながら診療が行われています。

2.院内における急性期脳梗塞診療システムの構築について
(今堀 太一郎 先生)

 新しいことや前例のないことを始める際には、周りから消極的な意見が出ることがよくあると思います。2010年に当院で救命救急センターが開設された時にも、これは例外ではなく、開設当初に救急搬送システムなどの院内体制を作り上げる作業は、容易ではありませんでした。そこで、私たちは実臨床の中で成果を出すことを先行させ、一人ひとりの患者さんの救急搬送や治療による成果を院内で共有し、成功事例を院内の他のスタッフにも実感してもらうことで、その方法を院内でシステム化していく方法をとりました。

 2015年に今堀先生が赴任され、血管内治療を始めようとした際も同様でした。それまでは、急性期の脳卒中患者さんが搬入されてきても、いつMRI検査をするのか、どの段階で脳神経外科の先生に来てもらうのかなどの院内ルールが曖昧で、その都度スタッフが判断しながら実行しているような状況でした。そこで、従来の再開通療法では治療が困難な急性期脳梗塞の患者さんに対して緊急の血管内治療を行うと、再開通に成功し患者さんの症状が劇的に改善することを、まずは院内で共有するようにしました。さらに、このような成功事例を得るためには、時間が何よりも重要であることをスタッフに認識してもらいました。そして、1秒でも時間を短縮できるようなシステムを救命救急センターと脳血管外科が中心となって考案し、これを院内に提案するような方法をとりました。

 それでも、新しいシステムが運用されると、日常業務が煩雑になることや多忙になることなどを理由に、難色を示したり反対意見を述べたりするスタッフもいました。このような時には、院内事情ではなく患者さんの利益を最優先して考えることの重要性を強く訴え、納得してもらうようにしました。

 このようにトップダウンによる意思決定ではなく、第一線の現場スタッフが一生懸命に考え、院内で説得を続けながら作り上げたのが、現在運用されている当院における急性期脳梗塞診療システムです。