Dr_Ohta_portrait_02

ONE PATHOS
Interview Vol.1
東京都多摩エリア
Ⅱ.Onset to Door
(発症から搬送まで) :
PSC→CSCへ転送の場合

東京都立多摩総合医療センター
脳神経外科 医長

太田 貴裕 先生

1.患者転送時のOnset to Door時間の短縮

 急性期脳梗塞の初療施設(primary stroke center:PSC)が患者さんを再開通治療可能施設(comprehensive stroke center: CSC)に搬送する場合、患者さんの検査から診察、家族への病状説明、受け入れ施設への電話連絡、診断・検査情報や紹介状の作成など、対応すべき事項は多岐にわたります。Onset to Door時間を短縮するためには、これらのひとつひとつを効率的に行うことが重要となります。

 PSCにおいて患者搬入から転送まで(door-in to door-out time)の時間をなるべく短くするようにしていただく必要があります。なかでも、画像診断の情報をCDにコピーするのに多くの時間を費やすケースがあるようで、まずはここを簡素化する必要があります。画像診断の情報全てを印刷する必要はありません。拡散強調画像で映し出された脳梗塞の所見、MRAによる内頚動脈、中大脳動脈M1閉塞など閉塞部位がわかるような情報のみで十分と考えます。プリントスクリーンで1枚の紙に印刷するだけで十分な場合が多くあります。また、必ずしもMRIを撮る必要はなく、たとえばCT上で脳出血が否定され、症状が強く意識障害があり、共同偏視や片麻痺、失語などの主幹大動脈梗塞を疑うような皮質症状があれば、すぐにCSCに搬送してもらっていいと思います。まずはPSCで初診を担当した医師が脳梗塞を疑うことが大切で、疑わしい患者さんはすぐに搬送するような心構えが重要だと考えます。また、採血の結果が出るまでに数十分間の時間を要しますが、この結果を待つことなく速やかに患者さんを搬送し、採血結果は後で電話やFAXで連絡するような方法も効率的です。
 また、血管内治療の必要性が考慮される患者さんについては、送る側の施設(PSC)においても患者さんや家族に説明をしておく必要があります。そこで、多摩地区では血管内治療用の説明書を用意し、各施設で共有するようにしています。これを用いることで、非専門の医師であっても要点を説明することができ、搬送先の施設(CSC)において患者さんや家族への重複した説明を回避することができます。

2.t-PA静注療法と血管内治療の連携
Drip, Ship, Retrieve

 血管内治療は経験と技術、設備などが必要となるため、地域の中で施行可能な施設は限られています。そこで、急性期脳梗塞治療における効果的な医療連携の概念として“Drip、 ship and retrieve”が提唱されています(図3)。Dripはt-PA静注療法、shipは救急搬送、retrieveは血管内治療です。つまり、脳梗塞を発症したらまずは救急車で近くの一次脳卒中センター(PSC)に搬送し、4.5時間以内にt-PAの静注を開始します。そして、t-PA静注を行いながら救急車で包括的脳卒中センター(CSC)に運び、そこで血管内治療を施行するという考え方です。

 しかし、このDrip、 ship and retrieveの必要性や効果については、各々の地域特性によって異なります。どの位の面積の医療圏の中で何施設のPSCやCSCがあるか、どの程度の距離をカバーできるかなどを考えると、たとえば東京都と北海道ではかなり事情が異なることがわかります。

図3
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図4(筆者提供)

 多摩地区では、ほぼ5-10km圏内にCSCが存在するため、t-PA静注療法は行わずに搬送して血管内治療を行った方がスムーズと思われるケースが多くあります(図4)。マンパワーなどによって状況は異なりますが、t-PA静注を開始するまでに多くの時間を費やす施設もあります。また、夜間ではPSCでも非専門医が当直を担当していると、t-PA静注療法の判断・施行が難しい場合もあります。さらに、t-PA静注時の出血への対応や血圧コントロールの必要性などを考えると、医師が付き添った救急車での搬送が理想的ですが、そこまで医師のマンパワーに余裕のある施設はありません。t-PA静注の開始にこだわらず、患者さんをCSCにいかに早く転送するかが重要です。

 一方、常勤の血管内治療専門医が在籍していないPSCでは、他施設から専門医が来院して血管内治療を行う方法もあります。具体的には、当該施設でt-PA静注慮法と同時に脳血管撮影を開始し、血管内治療の適応であれば専門医の到着を待ち、到着後ただちに再開通治療を行います。私たちは、これを“Drip、 call and retrieve”とも呼んでいます1)。t-PA静注慮法後にCSCに搬送するDrip、 ship and retrieveよりも時間の短縮が期待できます2)。また、このシステムでは、血管内治療に関する施設での経験値を高め、チーム医療として治療法を習熟することができる利点があり、血管内治療可能施設の増加に貢献することも期待されます。しかし、これは専門医の移動が30-60分以内の場合に可能な方法と考えられます。現在多摩地区でこの方法で治療を行うことはほとんどなく、TREAT(前回ページ参照)の過去3年の登録症例からは全例CSCで治療されています。

3.救急隊との連携

 東京都のデータでは、救急隊が脳卒中であると判断した場合、実際に脳卒中であった陽性的中率は約60%とされています。この陽性的中率をさらに高めることができれば理想的ですが、実際よりも軽症と判断してしまうアンダートリアージよりも、重症であるかもしれないと判断するオーバートリアージで搬送されることの方が好ましいと思います。

 救急隊員が用いる簡便な脳卒中判定法(脳卒中スケール)として、KPSS(倉敷病院前脳卒中スケール)などの複数のスケールが存在しています。これを用いて判定制度を高めていくことも重要ですが、救急隊が扱う急性疾患は多岐にわたるため、脳卒中に特化して啓発活動を行うことは困難です。当院では患者さんが搬送されると救急隊員にはMRI室まで入ってもらいMRI画像の結果を説明しています。患者さんの病状と診断情報を救急隊員へフィードバックすることで私たちは日常診療の中で救急隊員への教育を積極的に行うように努めています。

 今後は主幹動脈閉塞症を簡便に予測できるスケールや、スマートホンやタブレットで使用できるソフト・アプリなどの開発が行われています。遠隔画像診断・転送システムなども救急隊との連携強化に役立つと考えられます。


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<引用文献>

1) 太田貴裕、他.Drip,Call,and Retrieve‐常勤脳血管内治療専門医不在施設における再開通治療.脳卒中の外科2015;43:342-346.

2) 天野達雄、他.急性期脳梗塞治療における新しい病院間連携「Mobile Endovascular-therapy Team」と患者転送症例における血栓回収療法までの時間検討.J NET 2015;9:238-244.