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ONE PATHOS Interview Vol.2 兵庫県但馬エリア Ⅴ.血管内治療普及のための
課題

公立豊岡病院
但馬救命救急センター センター長

小林 誠人 先生
脳神経外科 医長
(30年4月以降 神戸大学医学部付属病院 脳神経外科 助教)
今堀 太一郎 先生

1.地域における啓発活動と血管内治療の普及
(小林 誠人 先生)

 急性期脳梗塞の治療は時間との勝負であり、発症から一刻も早く病院に搬入し再開通療法を実施する必要があります。このためには、まずは発症した患者さんや家族、周りの人たちが脳梗塞を疑うことが大切です。しかし、このためには脳梗塞についてのある程度の周辺知識が必要であることから、地域の一般住民への啓発活動も重要だと考えています。 そこで、私たちは小学校、中学校、高等学校、PTA、区町会、老人会などの会合を利用させていただき、月に2~3回のペースで脳梗塞に関する啓発活動を行っています。具体的には、突然の麻痺、ろれつが回らないなどの症状が見られる場合は、迷うことなく救急車を呼ぶことなどを説明しています。また、消防庁が公開している、救急車を呼んだり病院で受診したりするべきかどうかの判断を助けてくれるスマートフォンのアプリなども紹介しています。このように、手遅れにならぬよう、早期に救急車を活用する方法を一般市民に啓発することも、地域全体の脳卒中治療成績の向上のためには、重要な取り組みだと考えています。

 また、消防職員や救急隊員の方々に対する啓発活動も大変重要だと思っています。私たち医療者側が、どんなに急性期脳梗塞患者さんの搬入から治療に至るワークフローを作っても、最初に患者さんと接触する消防職員や救急隊員がスイッチを入れない限り、そのワークフローは動き始めることができません。特に、救急隊員の方々には、地域住民を守る医療人の一員として脳卒中による神経学的な所見などをよく診て、血管内治療を含めた再灌流療法をよく理解したうえで、いかに最短時間で適切な医療施設に患者さんを搬送すべきかを判断できるように訓練をしておいていただきたいと思います。そして、専門医との密な連携のもとで、地域で脳卒中を発症した患者さんがひとりでも救われるよう、活動を共にしていただけたらと願っています。

 急性期脳梗塞に対する血管内治療は、発症から4.5時間以上経過しt-PA静注療法ができない場合や、t-PA静注療法の危険性が高い患者さんなどに対して、効果が期待できる新しい治療法です。そして、最近はデバイスの進化などに伴いさらなる治療成績の向上が期待されています。しかし、問題はこの治療を行うことができる専門医が不足していることです。加えて、専門医の地域偏在があり、日本各地で血管内治療ができる地域は限られていることが大きな課題となっています。今後、ひとりでも多くの脳血管内治療専門医が育成され、日本で満遍なくこの治療法が普及することに期待をしたいと思います。

2.血管内治療のさらなる拡大を目指して
(今堀 太一郎 先生)

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図5 兵庫県の脳血管内治療医数

 小林先生も述べられたように、脳血管内治療専門医の数はまだまだ少なく地域偏在があり、兵庫県においても中部から北部にかけては私のみであるのが現状です(図5)。これから、ひとりでも多くの先生方が脳血管内治療専門医として全国各地で活躍されることを願ってやみません。

 当院の脳神経外科には、6名の医師が在籍しています。通常、血管内治療は3名の医師体制で行われます。従来は、血管内治療は全て私が術者として行っていましたが、最近は他の先生方にも技術を伝道し、私以外の術者も出てくるようになってきています。今後もさらに治療技術を広め、どの術者であっても同じような時間で同じような治療成果が出せるように、診療科全体としてのレベルアップを図っていきたいと考えています。また、看護師や検査技師などからの協力も得ながら、できるだけ多くの先生方が血管内治療を行えるような環境を整えていければと思っています。

 私が脳血管内治療専門医を目指そうと思ったのは、研修医時代に本治療法の第一人者である神戸市立医療センター中央市民病院の坂井信幸先生の手技を目の当たりにしたからです。当時は、夜中にもかかわらず神経内科医と脳外科医が集まり、従来の方法では治療が難しいと思われる患者さんが、血管内治療によって再開通したことを大喜びしていた光景が目に浮かびます。それから研鑽を重ね、自分自身で血管内治療を行うようになると、患者さんの神経症状が明らかに良くなることを実感することができ、他の治療では味わうことのできないやりがいや達成感が得られる仕事だと常に思っています。今後、脳梗塞治療に携わる特に若い先生方には、ぜひ血管内治療に取り組むようにお勧めしたいと思います。