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ONE PATHOS Interview Vol.3 埼玉県西部エリア
Ⅰ.急性期脳梗塞治療ネットワーク構築の背景と概要

埼玉医科大学国際医療センター 脳神経外科 教授
神山 信也 先生(写真左)
埼玉県保健医療部医療整備課 主幹
(30年4月以降 埼玉県商業サービス産業支援課 主幹)
高野 雄規 氏(写真右)

1.埼玉県における急性期脳梗塞治療の現状(神山先生)

 急性期脳梗塞に対しては、組織プラスミノーゲンアクチベーター(Tissue Plasminogen Activator;t-PA)静注療法が標準的治療として確立していますが、t-PA静注療法は発症から4.5時間以内に投与する必要があるなど制約があります。そこで、t-PA静注療法が適応外、又はt-PA静注療法のみでは十分な効果が期待できない場合の新しい治療法として、最近では血管内治療が注目されるようになっています。そして、2015年にはステント型血栓回収デバイスを用いたMR CLEAN試験など1)-5)の国際共同試験の結果が相次いで報告され、t-PA静注療法に加えて発症から6~12時間以内に血管内治療を施行することにより、治療後の日常生活自立度が改善されることが明らかとなりましたが、そのインパクトは非常に大きなものでした。このような背景の中で、2015年に改訂され2017年に追補版が発行された、「脳卒中治療ガイドライン」では、急性期脳梗塞に対してはt-PA静注療法に追加して血管内治療を行うことが強く推奨されており、治療開始までの時間が早いほど良好な転帰が期待できることから、少しでも早く血管内治療を行うことを勧めています6)。当院でも急性期脳梗塞に対し、どのような患者さんが血管内治療の対象となるのか、フローチャートで判断しています(図1)。

fig1

 一方で、血管内治療にはカテーテルの細かい操作などの高度な技術が必要となります。このため、血管内治療を実施できる医師は、日本脳神経血管内治療学会が認定する脳血管内治療専門医や専門医相当の経験を有する医師に限定されます。そして、日本にはこの脳血管内治療医が偏在している地域が多く、脳梗塞を発症した地域によっては血管内治療を受けられない患者さんがいることが大きな課題の1つとなっています。参考までにですが、人口10万人当たりの脳血管内治療専門医数の全国平均は0.85人で、専門医は主に西日本に集中しており、その中でも京都府が最も多く、2.0人弱となっています(図2)。また、人口10万人当たりの血管内治療件数の全国平均は6.06件で、高知県が飛び抜けて多くなっています(図37)

fig2
fig3

 2016年末時点において、わが国で医療施設に従事する医師数は人口10万人に対して240.1人であり、これを都道府県別に見ると埼玉県が160.1人と最も少なく、最も多いのは徳島県の315.9人、次いで京都府の314.9人となっています8)。このように全国で最も人口当たりの医師数が少ない埼玉県では脳血管内治療医も少なく県の中でも偏在しているため、脳血管内治療医が1人もいない地区も存在しています。特に北部医療圏では人口に対する脳血管内治療医の数が少なく、本来ならば助かるはずの急性期脳梗塞の患者さんが助けられていない可能性も考えられます。そして、この問題を解決するためには、脳血管内治療医の早期育成とともに、急性期脳梗塞治療のための医療連携ネットワークの構築が急務の課題となっていました。

2.埼玉県急性期脳梗塞治療ネットワーク(SSN)の概要(高野氏)

 各都道府県は、計画期間を平成30年度から35年度までとした第7次医療計画を29年度中に策定したところです。第7次医療計画の策定に当たり、国は都道府県に対し、疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制について指針を出しており、その中で脳卒中の医療体制に関して急性期から回復期及び慢性期までの一貫した医療体制の構築を求めています。そのため、今後、各都道府県では脳卒中に関する体制強化は急務となってきます。このような背景の中で、このたび埼玉県では埼玉県急性期脳梗塞治療ネットワーク(Saitama Stroke Network;SSN)を構築し、平成29年12月から試行運用、30年1月から本格運用とし(表1)、県内41の医療機関(図4)と全27消防本部が参加した取組を行っています(平成30年3月31日現在)。

table1
fig4

 急性期脳梗塞の患者さんを受け入れる病院を2つの区分に分け、原則として脳血管内治療医が在籍し血管内治療を施行することができる基幹病院と、血管内治療は行わないもののt-PA静注療法での対応が可能な連携病院を位置付けています(表2)。
 SSNでは、それぞれの病院機能に応じてネットワークを構築していることが特長の1つとなっています。 救急隊員の観察により、発症後7時間以内の脳梗塞が疑われた場合は、原則として現場から直近の脳血管内治療医が在籍する基幹病院から順番に収容依頼します。地域の実情により基幹病院が少なかったり、何らかの理由により基幹病院が対応できないときには、発症から3.5時間以内であればt-PA静注療法を行う連携病院にも収容依頼します。

table2

 ただし、患者対応中や手術中などにより基幹病院や連携病院が対応できない場合は、あらかじめ本県が導入している救急医療情報システムの応需情報を不可にしておきます。救急隊はスマートフォンやタブレット端末で各医療機関の応需情報を確認できますので、無駄な収容依頼を避けることができます。
 なお、発症からの時間を血管内治療では7時間以内、t-PA静注療法では3.5時間以内としているのは、病院搬送後に検査や処置などで治療開始までに1時間は確保する必要があると考えているためです。
 さらに、SSNでは、迅速な救急搬送を実現するため、救急隊と病院の医師とを直接結ぶホットライン(救急隊専用電話)の導入を推奨しています。ただし、救急隊がホットラインに電話をできるのは、原則として規定時間以内(基幹病院で発症から7時間以内、連携病院で3.5時間以内)の症例としています。
 SSNにこのような特長的なルールを設けた背景には、医師の疲弊を避け、県内の少ない医療資源を有効活用することに主眼が置かれていることにあります。急性期脳梗塞が疑われる患者さんを目の前にすると、一般的に救急隊員は早く搬送先を決めたいため、ホットラインに収容依頼したいと考える傾向があると思います。適用時間を超えた患者さんまで対象にすると医師はたちまち疲弊してしまい、ネットワークシステム自体が崩壊する危険性があると考えました。
 また、救急医療情報システムのスマートフォン機能では、基幹病院や連携病院が一目でわかるようなアイコンが表示されており(写真)、すべての救急隊員が簡単にシステムを利用して搬送先を選定できる工夫をしています。
 なお、SSNの構築にあたっては、行政と医療機関との密な連携が必要不可欠であり、特に神山先生には的確なアドバイスやネットワーク設立のための御協力をいただきました。

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<引用文献>

1)     Berkhemer OA、Fransen PSS、Beumer D、 et al. for the MR CLEAN Investigators.   A randomized trial intraarterial treatment for acute ischemic stroke.N Engl J Med. 2015;372:11-20.

2)     Jovin TG、Chamorro A、 Cobo E、et al. for the REVASCAT Trial Investigators. Thrombectomy within 8 hours after symptom onset in ischemic stroke .N Engl J Med 2015;372:2296-2306.

3)     Saver JL、 Goyal、 Bonafe A、et al. for the SWIFT PRIME Investigators. Stent-retriever thrombectomy after Intravenous t-PA vs. t-PA alone in stroke.     N Engl J Med 2015; 372:2285-2295.

4)     Goyal M、 Demchuk AM、 Menon BK、et al. for the ESCAPE Trial Investigators. Randomized assessment of rapid endovascular treatment of ischemic stroke. N Engl J Med 2015; 372:1019-1030.

5)    Campbell BCV、 Mitchell PJ、 Kleinig TJ、 et、al. for the EXTEND-IA Investigators. Endovascular therapy for ischemic stroke with perfusion-imaging selection. N Engl J Med 2015; 372:1009-1018

6)     日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会 編集: 日本脳卒中治療ガイドライン2015 [追補2017対応].第2版. 東京:協和企画;2017.

7)     吉村 紳一、他. 超急性期脳梗塞に対する血管内治療研究会:Recovery by Endovascular Salvage for Cerebral Ultra-acute Embolism (RESCUE)-Japan Study.RESCUE Japan Project.Action1、全国調査の結果(2016).

8)     厚生労働省 平成28年(2016年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況. 都道府(従業地)別にみた人口10万対医師数:p.4 、平成29年12月. [http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/16/dl/kekka_1.pdf]