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ONE PATHOS Interview Vol.3 埼玉県西部エリア Ⅱ.行政の力を活用した急性期脳梗塞治療ネットワークの構築

埼玉医科大学国際医療センター 脳神経外科 教授
神山 信也 先生(写真)
埼玉県保健医療部医療整備課 主幹
(30年4月以降 埼玉県商業サービス産業支援課 主幹)
高野 雄規

1.偶然の出会いから生まれた行政との連携(神山先生)

 地域の中で急性期脳梗塞治療が普及していない現状を目の当たりにしていた2016年当時は、地域内で医療連携ネットワークの設立を目的とした研究会の立ち上げを計画し、これを実行しようとしていました。そんな11月のある日、たまたま院内で救急救命士が「いま県の医療行政の担当者が病院見学のため来院しているのですが、お会いになりますか」と尋ねてきました。その時、私は研究会の設立に行政からの協力が得られるチャンスかもしれないと考え、すぐにお会いすることにしました。それが高野氏との初めての出会いであり、この偶然の機会がその後のSSNの構築につながることになります。

 一般的に、医師は県の行政担当者に自ら会おうとすることは少ないと思います。私は防衛医科大学の出身で、もともとは自衛官でした。さらに、医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency;PMDA)に2年間出向していた経験もあるため、行政のシステムや物事を動かすパワーなどについてはよく理解をしていたつもりです。そこで、急性期脳梗塞の医療連携ネットワークを構築するに当たり、行政とタイアップできないかととっさに判断し、高野氏と面会することにしました。

 当初は、当院が所在する西部医療圏に加え、救急医療事情が厳しい北部医療圏においても医療連携ネットワークを構築することで、県全体の医療を底上げしたいと考えていました。すると、高野氏から、「せっかく血管内治療のような素晴らしい治療法があるのだから、南部医療圏や東部医療圏も含めて埼玉県全体で医療連携ネットワークを構築したらどうでしょうか」との提案を受けました。今思えば、このような大きな物の捉え方は、行政だからこそ出てくる発想であったと考えます。

 また、行政との連携によって得られるメリットとして、スムーズな情報伝達や意思決定が挙げられます。特に、基幹病院などの大きな組織においては、ボトムアップによる意思決定は困難なケースが多いと思います。例えば、脳卒中の治療システムを作りたいと提案しても、院内には多くの部署があり、1つの案件を優先することには難色が示されるケースが多いのが実情です。しかし、県からの通知が病院に届けば、意思決定も速やかに組織全体がスムーズに動き出します。さらに、消防本部など他の行政機関とも連携が取りやすいことも大きなメリットとなります。

2.医療行政担当者としての取組(高野氏)

 医療行政に関する役所仕事というと、毎日机にかじりついて補助金の申請書を処理しているようにイメージされがちですが、埼玉県の医療行政担当者は医療現場にできるだけ出向き、医師、看護師、救急救命士ら医療従事者の生の声を聞き、それを政策に反映させることを信条として日々の仕事を行っています。正に現場主義の徹底です。

 2016年11月のある日、救急医療施策の参考にするため、埼玉医科大学国際医療センターで24時間の病院見学をさせていただきました。その際、院内の救急救命士さんから神山先生を紹介していただき、その時初めてt-PAや血管内治療の有用性、エビデンスについて急性期脳梗塞の患者さんの症状を劇的に改善できる画期的な治療法と教えていただきました。
 さらに、たまたま同日中に血管内治療の対象となる患者さんが搬送され、手術室に入って実際の血管内治療を見学することができ、看護師などの医療スタッフの動きや若手医師への指導風景なども含めて貴重な情報を得ることができました。「百聞は一見に如かず」で、実際に患者さんの症状改善を目の当たりにして、この治療法を行政としても普及させていく必要性を認識したのです。

 その後、役所に持ち帰って検討を進めることになりましたが、実効性のあるネットワークを構築するためには、何か根拠に基づいて運用する必要があると考えました。また、神山先生とのお話しの中で、急性期脳梗塞治療は医療機関だけの取組ではなく、病院前救護との連携、すなわち救急隊との連携が必要不可欠と教えられました。
 そこで、救急隊の活動の中に急性期脳梗塞の患者さんへの対応を具体的に定義づける方向で検討を進めました。
 その具体的な答えが、SSNを「消防法35条の5第2項第6号」に位置付けるというものです。消防法では都道府県に「傷病者の搬送及び受入れの実施に関する基準(いわゆる実施基準)」の策定を義務付けています(消防法第35条の5第1項)。実施基準には、傷病者の状況に応じた適切な医療の提供が行われるように分類された医療機関のリスト、救急隊による観察基準、搬送先医療機関が速やかに決定しない場合に受入医療機関を確保するためのルール等を定めることになっています。

 この実施基準には「その他傷病者の受入れを行う医療機関の確保に資する事項として傷病者を受入れる医療機関を定める」ことができます(消防法35条の5第2項第6号)。  具体的には、専門的な処置を要する傷病者の受入基準や医療機関の受入可否情報の提供に関する事項を規定することができます。本県はこの条文を根拠として、消防本部と医療機関及び医療機関同士が連携したSSNの構築を図ることとしました。