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ONE PATHOS Interview Vol.3 埼玉県西部エリア Ⅲ.埼玉県急性期脳梗塞治療ネットワーク(SSN)構築までの経緯

埼玉医科大学国際医療センター 脳神経外科 教授
神山 信也 先生
埼玉県保健医療部医療整備課 主幹
(30年4月以降 埼玉県商業サービス産業支援課 主幹)
高野 雄規 氏(写真)

1.行政からの5つのステップによる準備(高野氏)

 SSNの立ち上げには、庁内では私を含めて1.5人のマンパワーで担当しました。まず、私たちには医療の専門知識がないため、神山先生をはじめとした専門家の先生方からいろいろなアドバイスをいただきながら準備を進めました。

 最初のステップは、県庁内部での調整と合意形成を図ることでした。部長や課長に神山先生らの思いを伝え、これは県として取り組むべき課題であることを訴え、消防部局などの関係部署とも合意形成を図りました。

 2つ目のステップは、庁内で合意形成が得られた事項を実現するための外部機関との調整でした。外部機関としては、消防本部の協力が必要不可欠となりますが、消防本部との合意形成を図るためには県メディカルコントロール協議会への提案が効果的でした。メディカルコントロール協議会は、救急業務の高度化が図られるよう、救急救命士に対する指示体制の調整等を行う組織で、各都道府県に設置されています。県の消防主管部局と衛生主管部局、消防本部、医師会、救急医療機関及び救命救急センターなどの医師らによって構成されています。SSNを「消防法35条の5第2項第6号」に基づき運用するためには、協議会(本県では県メディカルコントロール協議会)の意見を聴く必要がありました。(同条第4項及び6項、第35条の8第1項)。そのため、まずは協議会でSSNについて説明し、理解を求めることに注力しました。関係委員には事前に十分説明を行うとともに、会議当日には神山先生にもオブザーバーとして参加していただきました。委員からは特段反対意見はなく、平成29年度中にSSNを構築することが了承されたのです。

 3つ目のステップは、個別医療機関からの合意の取り付けでした。専門的知識がない私は、まずは地域のSSNに参加意向のある医療機関に足を運び、医師の意見を聞くことから始めました。その際、神山先生が私の知らないところで調整をしてくださいました。訪問した際に初対面の医師から「神山先生から聞いているよ」と言われる機会が多く、調整が非常にしやすかったのを覚えています。16病院を訪問しましたが、血管内治療の実績の高い施設から順にSSNの構築について了承をいただき、順次理解を拡げていくことができました。血管内治療を専門にしていない医師からは「なぜ脳梗塞だけに着目するのか。その他の脳疾患を含めてバランスを考える必要がある」と異議を唱えられたときもありましたが、そのような場合には神山先生からフォローしていただくような場面もありました。

 4つ目のステップとしては、SSNに参加意向のある医療機関の意見を集約し、「SSN運用基準」の素案を作る作業を進めました。専門知識のない私にとってこの運用基準の作成はかなり困難で、神山先生から多くのアドバイスをいただきました。また、神山先生以外にも訪問時にお世話になった先生にアドバイスを求め、素案をブラッシュアップしていきました。

 最後の5つ目のステップとしては、運用基準案を参加病院に説明し、試行・運用に向けた準備を進めました。地域の実情をできる限り考慮するため、県を6つの地域に分けて意見交換会を実施しましたが、新しい取組だけに運用基準案には多くの修正意見が出ました。相反する意見もあり調整は非常に難しかったですが、判断に悩んだときはその都度初心に戻り、患者さんのためになるのは何かを基準にして調整していきました。SSNは患者さんのための仕組みであり、県民を助けるための対策と自分に言い聞かせながら、常に前に進むように努めたつもりです。

2.関係する医療機関との調整(神山先生)

 SSNの立ち上げのための行政の動きに合わせて、可能な範囲で関係する医療機関の先生方と話をしながら調整を行いました。すると、いくつかの医療機関からはSSNに異議を唱える意見も出てきました。血管内治療を行っている基幹病院からは、これ以上患者数が増えると医師の疲弊がさらに拡大するという懸念が出てきました。これに対しては、SSNでは患者さんの受け入れが可能なときには救急医療情報システムで応需可、受け入れできないときは応需不可にリアルタイムに切り替えることができ、応需不可の場合は他の医療機関に収容依頼が入る仕組みになっていることを説明し、納得していただきました。一方、血管内治療は施行していないが脳卒中の診療は行っているという医療機関からは、SSNの稼働により自院での患者さんが減ってしまうという意見も出てきました。このような場合は、超急性期の助かる患者さんを助けなければならないという大前提について納得していただいた上で、助かった患者さんを地域でフォローしていくという視点で捉えると、地域での患者さんの数は減ることがないことを訴えました。このような説明を行いながら、医療資源を適正に分配するという趣旨を伝えると、ほとんどの先生方からの合意を得ることができました。

 また、SSNは県単位のシステムであることも大きな特長となっています。埼玉県には中央、東部、西部第一、西部第二、南部、北部に6つの地域メディカルコントロール協議会(MC)があります。それぞれの地域MCの中で常時指示体制の整備、事後検証体制の確保、ならびに救急救命士の資質向上のための研修機会の確保に関する支援等が行われていますが、MC間の境界には見えない壁のようなものがある気がしています。しかし、SSNは同一MC内での収容といった原則はなく、あくまでも直近の基幹病院に収容依頼することが原則となっています。そのため、他のMCからも患者さんが搬送されてくるようになります。患者さんにとっては勿論、それぞれの医療機関にとってメリットとなるのではないでしょうか。