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ONE PATHOS Interview Vol.3 埼玉県西部エリア Ⅳ.埼玉県急性期脳梗塞治療ネットワーク(SSN)の運用開始

埼玉医科大学国際医療センター 脳神経外科 教授
神山 信也 先生(写真)
埼玉県保健医療部医療整備課 主幹
(30年4月以降 埼玉県商業サービス産業支援課 主幹)
高野 雄規

1.地区別の意見交換会による周知と運用基準の策定
(高野氏)

 SSN運用基準案の策定に伴い、平成29年9月30日にはネットワークの総決起集会という位置付けで全体の運営会議を行い、45の医療機関及び全27消防本部の関係者に出席していただきました。夜には懇親会も行い、活発な意見交換や情報共有ができたと思います。その後、県を6つの地域に分け、各地域での意見交換会を10月から11月にかけて行いました。やはり各地域で意見交換を行うと、それぞれの地域の実情に応じた意見や要望などが多く出ました。例えば、医療資源が必ずしも十分でない地域では基幹病院が少ないため負荷がかかり過ぎ、基幹病院へ優先的に搬送することには無理があるのではないかなど、具体的な事例が挙げられてきました。SSNの試行運用や本格運用に向け、これらの意見を集約し整理する作業を急ピッチで進めましたが、その際にも神山先生にはかなり助けていただきました。
 このような過程を経て、ようやくSSNの運用基準が固まっていきますが、SSNの運用に当たり3つの課題があると考えています。

 1つ目の課題は、救急隊に対する運用ルールの徹底です。救急隊員の皆さんが対象とする症状は幅広く、SSNの運用基準を毎日手に持ちながら活動するわけにはいきません。そのため、運用ルールは可能な限りシンプルにする必要がありますが、参加病院からの要望があり、運用ルールは複雑化していく傾向にあります。運用基準の周知には一定の時間がかかるのはやむを得ないものの、できるだけ早く周知徹底する必要があります。

 2つ目の課題は、ホットラインを用いた救急隊員と搬送先の医師との連絡手段は、SSNの生命線と言っても過言ではありませんが、現状では全ての参加病院がホットラインを導入できていないため、今後は拡大を図っていきたいと考えています。

 3つ目の課題は、CT又はMRI画像の情報共有化についてです。現在、本県においては医療・介護連携ネットワークツールとして「メディカルケアステーション(MCS)」(株式会社日本エンブレース社)が広く使われていますが、SSNにおいてもMCSを活用した画像共有システムを取り入れています。平成30年1月に本格運用してから(表1)、院内の医師同士の活用事例は徐々に増えてきていますが、他院との情報共有はこれからの課題です。

table1

2.県全体での急性期脳梗塞治療ネットワークの運用に向けて(神山先生)

 一般的に、医療機関同士の救急医療における連携ネットワークというと、地域ごとに休日や夜間に対応できる医療機関が日を決めて順番に担当する輪番制での対応などがまず頭に浮かぶと思います。しかし、SSNにおける医療機関同士の連携は、血管内治療を施行する基幹病院同士、あるいはt-PA静注療法を含めて脳梗塞の診療を行っている医療機関との1対1の対応で進めることができます。そのため、SSNは県全体にシステムを拡げても運用は可能となるわけです。また、地域によっては、複数の医療機関でネットワークを構築する必要がある場合もありますが、SSNでは地域に応じて自由にシステムを作ることができるという特長を有しています。

 また、消防本部との連携においても、一般的な地域での医療ネットワークでは医療機関グループと消防本部が個々に連携して救急搬送のシステムを決めて、それを実行するという仕組みになっています。一方、SSNでは「消防法35条の5第2項の第6号」を根拠とした県全体の活動基準となっているため、全救急隊員が同じ方向を向いて活動することになります。これはかなり大きなメリットとなります。さらに、県全体で取り組むことで、消防本部によるデータが管理され、これを蓄積することで様々な急性期脳梗塞の救急医療に関する科学的なデータが得られることも期待されています。

3.期待される消防本部による救急搬送データ(高野氏)

 救急隊員が活動を終えた後に救急車内で搬送実績を入力することで、埼玉県では年間に約33万件のビッグデータが得られるようになりました。このデータを分析することで、各地域の救急現場で何が起きているのかを把握することが可能となりました。病院単位や地域単位での救急車の受入率、照会回数を重ねてしまう地域、収容依頼が多い時間帯、救急隊と医療機関の通話時間など、脳梗塞治療の救急搬送で改善すべき課題が客観的なデータにより明らかになります。

 また、SSNで救急搬送された患者さんの転帰情報を集めることができれば、それを医療現場にフィードバックすることで貴重なエビデンスが得られる可能性もあり、今後はこのような方策についても先生方と相談していきたいと考えています。