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ONE PATHOS Interview Vol.3 埼玉県西部エリア Ⅴ.埼玉県急性期脳梗塞治療ネットワーク(SSN)に関する今後の課題

埼玉医科大学国際医療センター 脳神経外科 教授
神山 信也 先生(写真左)
埼玉県保健医療部医療整備課 主幹
(30年4月以降 埼玉県商業サービス産業支援課 主幹)
高野 雄規 氏(写真右)

1.脳血管内治療医の早期育成とDoor to Puncture時間の短縮(神山先生)

 SSNでは、2021年3月までの経過措置として、認定医の資格を有する医師が在籍しなくても、急性期脳梗塞に対する一定の治療実績があれば基幹病院として認めるというルールになっています。具体的には、直近の3年間で10例以上血栓回収療法の実績があることとしています。ただし、本基準はあくまでも経過措置であることから、経過措置を適用する基幹病院の管理者には早期に脳血管内治療の専門医を育成、確保するよう求めています。このため、関係する基幹病院においては、脳血管内治療医の早期育成が急務となっています。

 また、このようなSSNが構築されたことで、私たち医療従事者は各医療施設における院内治療体制の整備に集中することができます。急性期脳梗塞に対する血管内治療では、発症から再開通までの時間が短いほど転帰良好例が増加することから、搬送されてから穿刺までの時間(Door to Puncture)の短縮が求められています。また、t-PA静注療法までの時間短縮についても同様に重要となります。参考までにですが、当院では脳血管内治療の対象患者が搬送されてくる場合には2名以上の医師がスタンバイし、MRI検査を行っている間に他の医師が家族への説明と同意取得を行うなど、治療開始までの準備時間を短縮するための工夫を各過程で行うことで、2017年12月にはDoor to Punctureの平均時間を67分まで短縮することができました。

 さらに、今後は市民への啓発活動と救急隊員に対する教育も重要になってくると考えています。「昨晩から手が動かなくなったにもかかわらず、一晩我慢して朝になっても治らなかったため来院しました」と訴えるような患者さんがまだ後を絶ちません。脳卒中は一刻を争う疾患であることを1人でも多くの市民に啓発していく必要があります。一方、急性期脳梗塞治療に関する最近の進歩は目覚ましく、常に新しい情報を救急隊員にも提供していくことが重要となっています。さらに、SSNによって基幹病院に搬送され、血管内治療によって症状が改善し、患者さんが歩いて帰宅したなどの情報がフィードバックされることで、救急隊員のモチベーションはかなり高まります。このような救急隊員へのフィードバックなどの活動も、SSNを成功に導くためには重要になると考えています。

2.県としての今後の取組(高野氏)

 県としても、急性期脳梗塞についての啓発活動を積極的に行っていきたいと思っています。まず、県民に対しては、直近では埼玉県の広報誌「彩の国だより」平成30年2月号で脳梗塞やSSNに関する広報をしました(図5)9)。症状が出現したらすぐに119番通報することやSSNの新たな取組を紹介するとともに、神山先生からt-PA静注療法や血管内治療の有効性などをコメントしていただきました。2月1日の全戸配布日には多くの問い合わせが当課にあり、県民の関心の高さがうかがえました。先日もSSNが新聞にも取り上げられましたが、今後もt-PA静注療法や血管内治療などについて県民に広く認識してもらい、一人でも多くの急性期脳梗塞の患者さんが救われるような支援を県としても実施していきたいと思っています。

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また、県内の脳血管内治療医の先生方に講師をお願いし、最新の学会情報や傷病者の観察方法など救急隊員向けの勉強会を各地域で定期的に開催する予定です。既に2018年3月までに5回実施しましたが、日曜日や平日夕方の開催にもかかわらず、各回とも50名から80名ほどの参加をいただき、救急隊からもニーズがあると改めて認識しています。

 さらに、SSNは急性期の脳梗塞治療に焦点を当てた取組ですが、今後は回復期や慢性期における医療連携についても、これまで以上に県として取り組む必要があると考えています。現在、埼玉県では脳卒中地域連携パスの運用により、急性期病院、回復期リハビリテーション病院、かかりつけ医などの医療機関がシームレスに連携し、地域全体で脳卒中診療の向上を目指す取組が進められています。このシステムの運用はもとより、今後は転院が更に円滑化するよう県としても積極的に取り組んでいく必要があると考えています。

 一般的に、医療事情に精通している行政担当者は多くありません。そのため、行政担当者は頻繁に医療現場を訪問し、様々な情報を得ることが重要であると考えています。現場に行政の担当者が出向くと、財政的支援の要望など耳の痛いお話を頂戴することもありますが、それを恐れて机の上ばかりで仕事をしていたのでは、決して現状は改善しません。

 また、医療現場の方々には、例えば地域メディカルコントロール協議会などを通じて、行政担当者と積極的にコミュニケーションをとっていただきたいです。私どもは埼玉県の地域医療の更なる発展に尽くす所存です。地域の医療関係者の皆様、消防本部の皆様、今後もどうぞお力をお貸しくださるようお願いします。このSSNの事例が、これからの地方自治体と医療現場の連携に少しでもお役に立てれば幸いです。


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<引用文献>

9)     埼玉県広報紙 彩の国だより. 2018年2月号、 No.565:p.3、
平成30年(2018年)2月1日発行.
http://www.pref.saitama.lg.jp/a0301/sainokuni/documents/sainokunidayori2018_2.pdf