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ONE PATHOS Interview Vol.4 三重県伊勢エリア
三重県の過疎地域を含む医療圏での遠隔医療の取り組み

伊勢赤十字病院 脳卒中センター
脳血管内治療科 部長

柴田 益成 先生

1.三重県の「南北問題」

 三重県は南北に長い地形で、北から北勢、中勢伊賀、南勢志摩、東紀州の4つの2次医療圏があります(図1)。北勢は四日市市を代表とする重工業地帯で、中勢伊賀は県庁所在地の津市がある行政の中心地です。南勢志摩は畜産で有名な松阪市や当院のある伊勢市が含まれます。そして東紀州は和歌山県と隣接する地域で、尾鷲市などが含まれ、漁業や林業が盛んです。
三重県には「南北問題」が存在しており、北部地域は人口が増えているのに対し、南部では人口が減少しています。南部地域は30年先の日本を示しているともいえます。

fig1

2.当院まで救急車で2時間超

 医療提供体制の面でも、伊勢市以南には、2次救急施設は4病院しかありません。その地域で、当院は唯一の3次救急病院かつドクターヘリを有する病院です。脳卒中センターは、脳神経外科、脳神経内科、脳血管内治療科の計13人の医師が診療科の枠を超え、24時間体制で診療しています。
 しかしながら、患者さんを県南地域から当院に救急車で搬送しようとすると、最も近い施設からでも60分、最も離れている施設からは135分かかります。
 そのため従来は、病態の進展が急速な急性虚血性脳卒中(AIS)の患者さんについては、当院に搬送することなく、地元の病院で保存的な治療が行われる傾向にありました。あるいは、せっかく当院に搬送されても治療対象にならない患者さんもいました。私は脳神経内科医、脳血管内治療医として、この状況を何とかしたいとの思いを持っていました。そこで、3つの取り組みを開始しました。

3.ドクターヘリで4分の1に短縮

 それは、①ドクターヘリの導入、②救急隊との連携、③遠距離通信技術を用いたTelemedicineです。
 ドクターヘリは2012年2月、県のドクターヘリ事業開始に伴って導入し、県南の3病院からAIS患者さんをヘリで積極的に受け入れるようにしました。学校のグラウンドや河原、海辺など数百カ所を、地上の救急隊とドクターヘリが接触する「ランデブーポイント」に指定。救急隊が患者さんを近隣の病院に搬送するのではなく、ランデブーポイントを中継点としてドクターヘリにつなげることで、発生現場から当院に直接搬送する「ストロークバイパス」が可能になりました。先ほど、当院まで救急車で60~135分かかるとお話ししましたが、ドクターヘリの導入により、所要時間が4分の1程度に短縮できました。
 これまで地理的な理由で血栓溶解療法や血管内治療の対象とならなかった患者さんがこれらの治療を受けられる可能性があり、予後の改善が期待できることになります。
 救急隊との連携としては、2012年4月から当院の脳卒中センターや救命救急センターの医師が事後検証会に参加し、救急隊と会合を持ち、搬送方法や搬送先を共有して、今後の対策を話し合うようにしました。ストロークバイパスの運用には救急隊の適切な判断が重要であることから、医師と救急隊との連携を強化するためです。

4.簡便・安価なTelemedicine

 さらに、2013年6月以降、県南3病院(他院の参画もあり)との間で独自のTelemedicineの運用を開始しました。これは「脳卒中ダイレクトコール」と「OISESAN NET(お伊勢さんネット)」の2つからなります。
 前者は県南3病院のERと当院の脳卒中医との専用携帯電話を導入し、コンサルテーションを常時可能とするシステム。後者は当院と県南3病院との間を光ケーブルのVPN(仮想プライベートネットワーク)回線でつなぎ、共有フォルダを介して画像を転送するものです(図2)。

fig2

 Archiving and Communication System)接続端末から画像転送用端末にDICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)画像を移動すると、当センターの端末で患者情報が閲覧できます。例えば、70km離れた病院にいる患者さんの頸動脈エコーやMRI画像を当院でも確認できます。サーバーを用いないため、安価に運営できるのが特徴です。
 OISESAN NETは、もともと県南の尾鷲総合病院の救急部に当院の若手医師が研修に行っていた関係で、実験的に始めました。1年間試行したところ、良好に運用できたので、他の病院にも私が話に行きました。すると皆さん熱心で、すぐに導入が進みました。

5.過疎地からの搬送・治療例が増加

 成果をいくつかお示ししましょう。当院のAISの入院数は、2010年には349例でしたが、2016年には562例に増加しています(図3)。
 ドクターヘリによる搬送例数は、12年に16例でしたが、16年は49例でした。tPA(組織プラスミノゲン・アクティベータ)または血管内治療の施行例数は、11年が24例でしたが、16年には112例と飛躍的に増加しました。いずれの指標でも、特に志摩・鳥羽、紀北・紀南地域の患者さんが急増していました。この制度の導入前には予後が不良だったかもしれない患者さんが、適切な治療を受けることができたと言えます。

fig3

6.より使いやすいシステムに

 我々のTelemedicineの特徴と課題を図4にまとめました。
現状では、ダイレクトコール、パソコンを使用していますが、よりシンプルに使用できるようにしたいものです。例えば、転送側は簡単に画像を送れるように、受信側も、設置場所が固定されたパソコンではなく、スマートフォンを用いてどこでもコンサルトができるようになることです。

fig4

 課題(図4右)の3つ目に対する取り組みとしては、スマートデバイスのビデオコール機能を利用し、OISESAN NETに接続して、県南の病院にいる患者さんを当院の脳卒中医が評価することを始めています。
 脳卒中のTelemedicine(TeleStroke)に関して、診療を支援するハブ施設、受援するスポーク施設の基準や定義が1日も早く明確にされることを望みます。診療報酬上の評価の進展も待ちたいものです。
 また、県南3病院あるいは救急隊との連携をさらに強化するために、医師や救急隊ら200人が一堂に会し、症例報告と問題点のあぶり出しを行う「OISESAN NETの会」を3年前に始め、1年に1回のペースで行っています。ただし、患者さんの搬送に時間がかかるように、この会の参加者も会場の伊勢市までの移動に時間がかかるわけで、将来はビデオ会議などを利用して開催できればいいと考えています。

7.「顔の見える」過疎地だからこそ

 AISの医療連携については、過疎地だからこそできることがあります。まずは、医療連携の会や脳卒中研究会のような会合に出席して、他施設の医師や救急医療関係者と「顔の見える関係」を構築していくのがよいと思います。転送困難例の扱いについて、医療従事者なら問題意識をもっていると思いますので、連携が進みやすいのではないでしょうか。
 我々は離島での疾患啓発活動にも出かけています。そういった地域に行くと、人口減少に危機感を抱いた若い医療スタッフが、熱心に地域コミュニティに働きかけていることがわかります。それに参画するのも一つの方法です。
 過疎地のAIS患者さんの予後向上に、我々の取り組みが参考になれば幸いです。