堀江先生

ONE PATHOS Interview Vol.7 長崎県エリア
大学病院におけるチーム連携と時間短縮への挑戦

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
脳神経外科学 講師・医局長

堀江 信貴先生

1.脳卒中急性期の拠点に大学病院を

 脳卒中急性期は時間との戦いであり、例えば脳梗塞なら、適応となる患者をいかに早くt-PA静注療法あるいは血管内治療につなげるかが予後を左右します。時間との戦いを制するにはマンパワーも求められます。人口約42万人の長崎市では、長崎大学病院(写真1)を中心とした地域医療連携を構築し、医療従事者の疲弊を防ぎつつ、質の高い脳卒中診療を提供しています。

急性期の拠点は当院と長崎みなとメディカルセンターで、緊急処置を要するような脳卒中患者をこの2施設に集約し、急性期医療を行います。2施設では毎月、互いの脳卒中患者数、脳梗塞の血管内治療件数などを情報共有しています。

 当院では、2008年に脳卒中ケアユニット(SCU)による専門的・集中的な診療体制を構築し、放射線科の全面的なバックアップのもと、脳神経内科と脳神経外科が協働して脳卒中診療を強化しました。その後、脳卒中センターを開設。現在は脳神経外科医17人、脳神経内科医6~7人で年間400~500人の脳卒中患者を診療し、年間約70件の血管内治療を施行しています。

写真1:長崎大学病院

(写真1:長崎大学病院)

脳神経内科と脳神経外科がそれぞれの専門性を活かして診療にあたることが一つのキーポイントです。例えば、脳出血やくも膜下出血は外科的な治療が主体となりますが、脳梗塞患者の糖尿病や高血圧といった基礎疾患の管理は内科医が担当します。両科の医師が毎朝、脳卒中カンファレンスを開催し、前日の入院患者などに関して情報共有しています。

2.治療開始までを看護師主導で

 脳卒中患者が搬送された直後は、検査、処置、患者・家族への説明などを短時間に次々と行う必要があります。これらを医師だけで行うのは困難であり、看護師、診療放射線技師、臨床検査技師などとのチーム医療が求められます。それぞれの医療従事者が役割分担することで、治療開始までの時間短縮を図ることができますし、医師は診断、治療と患者・家族への説明に時間を充てることができるのです。

 当院では、救急搬送された脳卒中患者の診療準備を、救急外来の看護師主導で進めるシステムを構築しました。実際の流れを説明しましょう(図1)。

脳卒中診療医が携帯しているホットラインに救急隊や近隣施設から脳卒中疑い例の搬送が通報されると、医師は救急外来の看護師に患者搬送の旨を伝えます。それを受けて、看護師は診療放射線技師への連絡、スケールベッドの準備、t-PA投与のための体重換算表の準備などを行います。

図1:救急外来看護師の主導で診療準備

(図1:救急外来看護師の主導で診療準備)

患者が到着してからは、バイタルサイン測定、体重測定、採血、点滴ルート確保、NIHSSの評価までをほぼ同時に行います。そのぶん医師は、救命処置、エコー検査、患者・家族への説明などに集中できます。

 こうした取り組みの結果、脳梗塞患者において、来院からt-PA静注開始までの時間が、取り組み前と比べて10~15分短縮し、死亡率も有意に低減しました。たとえ10分、15分であっても、t-PAを早く投与できることは、神経学的予後の改善、生命予後の改善に寄与します。

時間短縮を達成できた要因は、チーム員が「脳卒中は時間との戦いである」との共通認識をもっていることだと思います。そして、認識の共有、情報の共有を継続するため、週に1回、SCUカンファレンスを開催し、医師、看護師、リハビリテーション科スタッフ、地域連携室、回復期病院のスタッフらが参加し、脳卒中入院患者について話し合っています(写真2)。

写真2:脳血管障害入院患者についての話し合い

写真2:脳血管障害入院患者についての話し合い

3.救急隊の「脳卒中見極め」を支援

 さらに、このような脳卒中診療連携を円滑に運営し、発症から治療開始までの時間を短縮するには、発症後最初に患者と接する救急隊の協力が不可欠です。脳卒中に類似した症状・所見を示す疾患は多くあります。昏睡、失語、手足を動かせないといった状態から脳卒中疑いの患者を的確に見極め、速やかに脳卒中診療の拠点病院に搬送することが、早期に質の高い医療を行うことにつながります。

救急隊としても、搬送した患者がどのような転帰をたどったのか、関心はあると思います。そこで、救急隊に脳卒中が疑われる症状の見極め方を伝えることや、搬送後の患者の状態を適宜フィードバックすることを通して、脳卒中への興味やスキルを高めてもらおうとしています。医師が消防署に出向いて脳卒中の初歩的な知識を講義することもあります。こうした早期発見・早期搬送の取り組みは全国的にも行われていますが、長崎市はいち早く始めたエリアの1つであり、救急隊の「脳卒中を見極める能力」は高いと考えています。

4.離島でも病気は進行を待たない

 さて、長崎県は全国で最も離島の数が多いという地理的な特徴があり、県の人口の約10%(約12万人)は離島の住民です。脳梗塞に関しては、離島の病院にいる患者の脳MRIやCT画像を本土の病院にいる医師が閲覧し、t-PAの投与の適否を判断します。適応であれば現地の病院でt-PAの投与を開始し、点滴をしながらヘリコプターで本土の病院に搬送するdrip and shipを取り入れています。

必要に応じて、本土に到着後に血管内治療を行うdrip,ship and retrieveも行っています。ただし、搬送に90~120分を要するため、発症から当院到着まで平均5時間8分(図2)、発症から血管内治療を開始するまで平均5時間20分かかっています。

図2:離島での発症から病院到着までの時間

図2:離島での発症から病院到着までの時間) 

「脳卒中治療ガイドライン2015[追補2017]」では、急性期脳主幹動脈閉塞に対して、発症後6時間以内に血管内治療を施行するとされています。その要件を満たすとはいえ、早いほどよいのです。脳梗塞の進行は、搬送の時間を待っていてくれません。この時間的なしばりは離島医療の現実でもあります。

また、住民には、脳卒中発作が疑われる症状があっても救急車を呼ばずに我慢してしまう、様子を見てしまうこともあります。搬送や受診につながらない人を少しでも減らすべく、一般向けの講演なども行っています。

5.患者が回復する感動を共有

 脳梗塞急性期の血管内治療は、詰まった血栓を物理的に回収し血管を再開通させるという、シンプルかつ効果的でやりがいの大きい治療です。昏睡状態で搬送され、失語があり、手足を動かすことができなかった患者が、血管内治療を終えた直後から会話が可能になり、手足を動かすことができ、意思疎通が可能になるのです。本人にも家族にも非常に喜ばれ、医師冥利に尽きる瞬間です。血管内治療の効果や回収された血栓を若い医師や医学生に見せると、皆一様に感動します。

一方で、血管内治療を行う医師の偏在と地域による治療件数のばらつきが指摘されており、いかに若い医師、特に内科系の医師に興味をもってもらうかが課題です。当院では、内科医に血管内治療に入ってもらい、トレーニングしています。先に述べた時間的なしばりという離島医療の現実を克服するためにも、将来的には、離島にも血管内治療ができる医師が常勤しているのが理想です。

 脳卒中診療をめぐっては、地域ごとに事情が異なり、異なる課題に直面していると思います。地域の現状を把握し、それを評価して課題を見つけ、一つ一つ克服していくことに尽きます。地域の医療チームとして、それぞれの診療を構築していく。連携に関しては、医療機関同士でも、医療従事者の間でも、やはりコミュニケーションと情報共有、それも直接会っての情報共有が最も有効なツールだと思います。

若い医師も、他の医療従事者も、患者が回復する感動を共有することで、脳卒中診療の連携が広がっていくと思います。