荒木勇人先生

ONE PATHOS Interview Vol.8 広島県エリア
チーム医療で「来院から60分以内の治療開始」を実現

荒木脳神経外科病院
院長

荒木 勇人 先生

1. 医療の原点は救急である

 当院は、広島市西部にある脳神経外科の専門病院です(写真1)。荒木攻理事長の「医療の原点は救急である」とのポリシーのもと、年間2,000件を超える救急搬送を受け入れています。脳卒中が疑われる救急患者さんも24時間365日診療しており、超急性期・急性期を乗り越えた後も、回復期、在宅医療に至るまで、一貫して質の高い医療を提供しています。

 常勤医は脳神経外科9人(うち脳卒中専門医6人)、脳血管内治療科2人(うち脳神経血管内治療専門医2人)、外科1人、循環器内科1人で、他に非常勤で5人以上の脳神経血管内治療専門医が従事しています。

 MRIは、3.0テスラが2台、1.5テスラが1台あり、救急患者さんに対してすぐに撮影できる体制を整えています。それとともに、患者さんの院内動線の見直しやスタッフの役割分担の効率化などに取り組み、必要な患者さんに速やかに血管内治療(機械的血栓回収療法)を開始できる体制を構築して、現在では来院から穿刺までの時間(Door to Puncture time:D2P)は60分以内となっています。

写真1:荒木脳神経外科病院

写真1:荒木脳神経外科病院

2. 患者動線やMRI撮影時間などを見直し

 例えば、救急隊から当院の事務に脳主幹動脈閉塞が疑われ、共同偏視と片麻痺がある患者さん搬送の連絡があれば、医師、看護師、臨床工学技士(ME)に呼び出しがかかります。応援のスタッフも加わり、カテーテルやシースなどを準備します。より効率的に行うために、カテーテルのセットは統一しました。

 カテ室には米国のガイドラインの抜粋や、梗塞の範囲を示すASPECTS (Alberta Stroke Program Early CT Score)を掲示して当直の医師が血管内治療の適応を判断しやすくするとともに、患者さんに対して適切で十分な説明がすぐにできるように、患者さんへの説明文書を統一。それにより、医師は患者さんの診療と説明に十分な時間を割くことができています。

 院内の患者動線では、頭蓋内圧亢進症状がなければCTをスキップして、MRIをすぐに撮影し、血管内治療の適応があれば救急室に戻ることなくカテ室に入室するようにしました。つまり、救急室からMRI室、そしてカテ室へと、同じところを重複することなく移動できるようにして、移動距離は以前の約80メートルから約30メートルと半分以下になりました。頭部MRIも3.0テスラを利用して、約10分の短縮モードで撮影するようにしました。

 MRIを速やかに撮影し、血管内治療の適応を判断する体制は、今後の急性期脳卒中診療体制においてますます重要になると考えています。

荒木先生

3. 成果は看護師らが学会で発表

 こうした取り組みの結果、2015年12月~2016年1月は89.5分(2カ月の中央値、以下同)であったD2Pが徐々に短縮しはじめ、4~5カ月後には70分を切り、20分の短縮を達成できました。

 ただ、患者さんの来院時間別に分析すると、診療時間外、特に脳神経血管内治療専門医が院内に不在の時間帯では、頭部MRI撮影終了からカテ室入室までに時間を要していました。そこで、診療時間外における迅速な治療準備や、遠隔電子カルテシステムの導入による医師のバックアップに取り組み、D2Pは2016年8~9月に61分、10~11月には44分となっています(図1)。

図1:1年間40例のD2Pの経過(2カ月ごとの中央値)

図1:1年間40例のD2Pの経過(2カ月ごとの中央値)

 当院では「経皮的脳血栓回収術 時間経過表」を作成し、来院からカテ室入室、穿刺、再開通までのタイムラインを記録することになっています。それを1カ月に1回、医師、看護師、ME、診療放射線技師らが集まって行われる手術連絡会議でフィードバックし、症例ごとに振り返って、より改善できるところはどこか、話し合っています(図2)。

図2: D2Pを4段階で検討

図2:D2Pを4段階で検討

 また、時間的な成果などを看護師や診療放射線技師に学会で発表してもらうなど、モチベーションのアップにつなげています。直近の実績として、2017年の第20回日本臨床脳神経外科学会(広島)や第59回全日病学会(全日本病院学会)(石川)などで発表しています。

 当院は110床の小規模な病院であり、基幹病院と比べて医師や医療スタッフの数は決して多くはありません。そうした中では、多職種連携によるチーム医療が必須と言えます。多職種連携のキーワードは「情報共有」と「コミュニケーション」で、新たな試みとしてアプリ(汎用画像診断装置ワークステーション用プログラム)を導入し、医療スタッフ間で画像を共有できるようにしました。

4. PDCAサイクルを回して

 2015年2月に急性期脳梗塞に対する血管内治療の有効性を示すエビデンスが相次いで発表され、その年の10月に米国のガイドラインが改訂されるなど、血管内治療が普及し始めました。

 当院でも、3年前の時点では症例数は限られていましたが、血管内治療によって麻痺が改善した患者さんや歩いて退院できた患者さんなどを経験するようになりました。必要な患者さんに有効な治療を施行できる体制を構築したいと思い、血管内治療に注力するために勉強会などを行いました。

 ただ当時は、患者さんが来院後、救急室からCT室あるいはMRI室に移動して撮影をし、tPAの適応があれば救急室に戻ってtPAを静注し、その間にカテーテルの準備を行いつつ、準備が出来たらカテ室に入室する、という流れでした。

 そこで、患者さんの予後改善と相関するD2Pの短縮に向けて、プランを立て、実行して、振り返り、さらに改善することを繰り返すPDCAサイクルを回しました。私自身も、多くの先生にお話を伺ったり、学会等に出席して情報や知見を持ち帰ったりして、当院に導入できるものはすべて取り入れようとしました。看護師の勉強会なども開催しました。

 6カ月くらいすると、医師、医療スタッフの間でD2Pに対する意識が高まり、短縮に向けて動き出すのを感じ、1年経過したころには、「根付いてきた」と感じることができました。

5. 来院までの時間短縮も重要

 もちろん、D2Pの短縮とともに、発症から来院までの時間短縮も重要です。そこで、まずは救急隊に脳卒中を知ってもらうことが重要と考え、救急隊との連携にも取り組んでいます。

 兵庫医科大学の吉村紳一先生の教室が救急隊向けに、疑われる病型ごとに適切な施設に搬送することを目指した「病院前脳卒中病型判別システム JUST Score」を考案されましたが、当院の近隣の広島市西消防署はこのシステムを導入しています。

このシステムから脳主幹動脈閉塞が疑われれば、血管内治療の適応になりうると判断できます。導入に先立つ実証実験を通じ、救急隊に脳梗塞や脳主幹動脈閉塞という病態に対して関心を持ってもらえました。この取り組みが広島市全体、そして広島県全体に広がればよいと思っています。

荒木先生(正面)

6. D2P短縮は予後に直結

 D2P短縮は、患者さんをめぐる種々の因子の中で予後に直結するものです。すべての医療スタッフが自らの役割を認識し、力を合わせることで患者さんの予後向上に寄与したという充実感を得ることができるのです。

 より広い視点で言えば、D2Pを短縮することで、血管内治療を受けられる患者さんが増えるとも考えられます。現在の枠組みをより洗練されたものとして、今後もD2Pの維持・短縮に取り組んでいきたいと思います。