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慢性腎不全 人工透析とトラブルに 対する治療法

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腎不全と治療法

腎不全

腎臓は尿を生成し血液中の老廃物や余分な水分を排泄することで、体内の水分量や電解質濃度、酸と塩基(pH)のバランスを保つ重要な働きを持つ臓器です。その働きが60%以下まで低下した状態を「慢性腎臓病(CKD)」といいます。CKDは、機能の程度で5段階に分かれます。

腎不全の種類

急性腎不全

もともと正常な腎臓の機能が急激に悪化してしまう急性腎不全は、腎機能を悪化させている原因を取り除くことで、腎臓の機能の回復が期待できます。

慢性腎不全

腎臓の機能を回復させることができなくなった状態であり、なかでも生命を維持することができないほどに腎臓の機能が低下してしまった状態(CKD5)を、末期腎不全(ESKD:End Stage Kidney Disease)と呼びます。末期腎不全にいたってしまうと、現在の医療では腎臓の機能を回復させることは難しく、腎臓の機能を代わりに補う治療である「腎代替療法」が必要になります。

末期腎不全の原因疾患

末期腎不全の原因疾患は大きく3つあると言われています。

原因疾患  

① 糖尿病性腎症

糖尿病の高血糖などにより生じる腎臓の合併症で、新たに透析が必要となる腎臓病として現在は最も多い疾患です。そのため、糖尿病性腎症の予防や克服は重要な課題になっています。

② 慢性糸球体腎炎
(IgA腎症)

世界で最も多い腎炎で、尿に血が混じったり、蛋白尿が出たりする症状があります。日本では「指定難病」の一つになっており、薬物療法を行いますが、未治療の場合は約4割の方が腎臓の機能が悪化し、透析に至る予後不良の疾患です。

③ 腎硬化症

高血圧が原因で腎臓の血管に動脈硬化を起こし、血管の内腔(血液が流れる空間)が狭くなって血液量が減少することで腎臓に障害をもたらす疾患です。

腎代替療法

腎代替療法は、大きく2種類に分けられます。

  • 透析:透析の中には血液透析、腹膜透析があります。血液透析は血管を介して、腹膜透析は腹膜を介して不要な老廃物や余分な水分を体外に出すという、本来腎臓が果たす役割を人工的に行うものです。
  • 腎移植:健康な方から片側の腎臓を、もしくは亡くなった方から腎臓を移植するものです。

日本では、透析患者さんのほとんどが血液透析を行っており、その数は約35万人と言われています。

血液透析とバスキュラーアクセス

血液透析

慢性腎不全の患者さんが選択される透析療法のほとんどが血液透析です。

血液透析では、血管を介して血液を体外に引き出し、ダイアライザーと呼ばれる人工膜を通します。この過程で、血液中にある老廃物や余分な水分を取り除き、浄化された血液を体内に戻します。1回4時間、週に3回通院するのが一般的です。

血液透析を受けることで、透析前と変わりない生活を日々送ることができます。

血液透析(イラスト)

バスキュラーアクセス

血液透析を行うためには、多くの血液を体外に取り出し、人工腎臓(ダイアライザー)を通った血液を体内に戻すための出入口が必要になります。このような血液の出入口をバスキュラーアクセスと呼び、いくつかの種類があります。

内シャント

採血のように静脈に穿刺するだけでは、血液透析に十分な血液を体外に取り出すことができません。動脈からは十分な血液を得ることができますが、毎回の透析で深い位置にある動脈を穿刺することはできません。

そこで、動脈と静脈を皮下でつなぎ合わせ、静脈に動脈の血液を流すことが考案されました。これを「血管内シャント(内シャント)」と呼びます。内シャントは、通常、前腕に作製されます。内シャントを作製すれば静脈を穿刺しても十分な血液を取り出すことができます。内シャントには、自分の血管を使用する自己血管内シャントと、人工血管を使用する人工血管内シャントがあります。

バスキュラーアクセス(イラスト)
動脈表在化

内シャントを作製するための適した静脈がない場合、直接動脈に穿刺して透析を行いますが、動脈は深い位置にあるため、毎回の透析で穿刺することは困難です。そこで、動脈を静脈と同じ程度の深さに移動させて穿刺する方法が考案されました。これを動脈表在化法といいます。通常、肘の少し上で作製します。そして、患者さん自身の静脈に血液を戻します。
 

カテーテル

内シャント作製や動脈表在化の作製が難しい患者さんは、内頸静脈や大腿静脈にカテーテルを挿入し、そのカテーテルを介して透析を行います。内シャントや動脈表在化と違い、毎回穿刺をする必要がありませんが、常にカテーテルが体の外に出ている状態になるため、感染対策が大変重要になります。

バスキュラーアクセスのトラブルと治療法

バスキュラーアクセスのトラブル

バスキュラーアクセスに起こりうるトラブルとしては、以下のようなものが挙げられます。

  • 狭窄・・・アクセスの通路が狭まり十分な透析ができなくなる
  • 閉塞・・・狭窄が悪化し完全に通路がふさがり、血流が途絶える
  • 感染・・・バスキュラーアクセスは体の内外の出入口となるため感染リスクが高い
  • 静脈圧上昇・・・狭窄や閉塞が原因で血流不全となり静脈にかかる圧が上昇する
  • スチール症候群・・・末梢に流れるべき血流が血管内シャントに奪われてしまい、末梢側の血液循環が滞る
  • 瘤(コブ)・・・血管内シャントの血流により血管壁が一部膨れ上がり瘤を形成する        など

バスキュラーアクセスのトラブルとして最も多い“狭窄”について、もう少しご紹介します。

狭窄が起きる要因

狭窄は、内シャントの静脈に起こりやすいトラブルです。主な原因は以下の通りです。

  • 血流の刺激による血管壁の肥厚(厚くなること)
  • 透析時の針刺しによる血管の傷み
  • 静脈弁の肥厚
  • 血管壁の石灰化(血管にカルシウムが沈着し硬くなること)

狭窄によって次のようなトラブルや症状が生じます。

  • 血液透析に必要な血流を取り出せなくなる(脱血不良)
  • 透析中の静脈圧が高くなる
  • 血管の圧力が高くなり瘤を形成する
  • 狭窄で一部の血流が逆流して、腕や手、指の腫れ(静脈高血圧症)が生じる
狭窄が起きる原因(イラスト)

治療法

狭窄に対する治療法は、狭窄の度合いや患者さんの状態によって医師の判断にて選択されます。

PTAバルーンによる治療
一般的なPTAバルーン

狭窄に対する治療として最も一般的なのが、バルーンによる治療です。
血管の内部にバルーン(風船)のついたカテーテルを入れて膨らませることで、シャントやその周辺血管の狭窄部を広げます。
透析の針より少し太い針をシャント血管に留置して、そこからカテーテルを挿入します。皮膚切開は行わないので、体に負担の少ない手術になります。

一般的なPTAバルーン(イラスト)
薬剤コーティングバルーン

狭窄を繰り返す患者さんには、狭窄部に対するバルーン治療に加え、患部に薬剤を塗布するバルーンを使用することもあります。薬剤の効果により再狭窄までの期間を延長させることが期待されます。

狭窄の状況に応じて、医師の判断のもと選択されるため、薬剤コーティングバルーンを使用できないこともあります。

薬剤コーティングバルーン(イラスト)
外科的治療

PTAバルーンによる狭窄治療が難しい場合は、外科的な治療が選択されます。

血管内シャントの再造設

狭窄部の少し上で、新たにシャントを作製する手術です。
吻合部の近くの狭窄を繰り返す患者さんに選択されます。
シャントの血液が狭窄部を通らなくなるため、通常、PTAバルーンによる治療よりも長持ちします。

外科的治療(イラスト)
人工血管の造設

患者さん自身の血管で内シャントを作製できない場合に行います。穿刺できる人工血管を皮下に埋め込み、それぞれの断端を動脈と静脈に吻合します。そうすることで、人工血管に動脈の血液が流れるようになります。通常、手術してから3週間程度で穿刺できますが、翌日から穿刺できる人工血管もあります。

 

血管バイパス手術

血管の狭い部位を人工血管や患者さん自身の静脈でバイパスする方法です。狭窄部がシャントの吻合部から離れているときに選択します。

監修

腎不全と治療法、血液透析
加納岩総合病院 深澤瑞也先生

バスキュラーアクセス、バスキュラーアクセスのトラブルと治療法
飯田橋春口クリニック 春口洋昭先生